intime o'
科学理論は決してほんとうに真であると証明されることはない(レン・フィッシャー著「魂の重さは何グラム?」より) 電車という空間について 2011/08/31(Wed.)電車の中という空間は、もしやすると家の中よりも落ち着ける空間ではないか。 午前、下りの電車は空いていて、スーツが数人いるだけである。その中で私服で のんびり小説を読んでいる私は一人優越感に浸っているのである。 //のうのうと暮らしてきた人間の書く小説は面白いか? 乗換駅で降りて、次の電車を待っているのだが、どれも満員で「ははぁ、まさしく "鮨詰め"だな」と独り言ちてクーラーの利いた待合室でのんびりしていて、 そこでようやく荷物が無いことに気付いた。さっきの電車に忘れたのだろうか。 私は慌てて、ひとまずさっきのホームに向かった。頭の中は随分と冷静で 今日の自分の行動を一つ一つ復習した。さっきの電車に乗る時点で、とっくに 荷物は無かったのだ。「そうか、自転車のカゴだな」いつもはカバンを肩に かけた状態で自転車を漕いで駅まで来ていたのに今日に限って自転車の前のカゴ に入れてたのだ。 まだ夏で、駅に着いてまずクーラーのあまり利いていない待合室に入った。 といっても外よりは涼しいのに、何で私しかいないのだろう。暑いのに 何で皆、外で次の電車を待っているの。私がいるから入ってこないのでは ないだろうか。 電車が来て、なんとか座ることができた。いつものように小説を読んでよう と思ったのだが、無かった。本が入ったカバンが無いのだから当然だ。 だのに私はそれを不思議に思わず、仕方がないので携帯で小説を読もうと 考えたのだ(私の携帯には青空文庫で手に入れたテキスト形式の小説が いくつか入っている)。乗換駅でようやく気附いたわけだ。バイト先には 電話で「一時間遅れる」とだけ伝えて、それでもまたのんびりと混んでる 電車を躊躇して一本見送ってしまう。もっともこの時間の上り電車に 空いてるものなんて無くて、諦めて次の電車に乗ってしまう。 --- その日の帰り、またその乗換駅である。さほど大きくない駅だが乗換駅な だけに色んな人種が集まっていて、私の注意を引くような事件がよく起きる のである。まだまだ沢山あるから今度の機会に回さざるを得ない。一つだけ 書く。 乗換駅で電車を降り、階段を降りて少し歩いてまた階段を降りると次のホーム に着く。どんなに急いでも人が沢山歩いてるがために5分は掛かるであろう。 私が乗り換えのホームに着くと同時に乗りたかった電車が発車した。次の 電車までは10分は待たなければならない。その時私は仕事の荷物を多く抱えて いて、しかもこれが夏バテなのか、随分と気分が悪くて早く休みたかったので いち早くベンチの端っこに腰をかけた。 猫背になった状態が一番落ち着けて、腕を組んで背中を曲げて目をつぶって 休んでいると、すぐ隣に誰かが座った。そのことには何の注目もしなかった が、となりで雄鶏が鳴くような声がして、時にはぐずつく赤ん坊の泣き声の ようにも聞こえ、そこで初めて体を起こして隣を見ると、酔っているのか 気分が悪いのか顔色の悪いおっさんが座っていて、膝に乗せたカバンを枕に していた。やがてはっきりと吐き気を催すような音を鳴らした。 何か声を掛けた方がいいと思い、かと言って面倒を見るわけにもいかない。 私は適当に「大丈夫ですか?」とかおざなりな事を吐いた。 「うん。あんまり、大丈夫じゃない」 と言われても困る。「そうですか。まあ、お大事に」 丁度次の電車が来たのでそれに乗り込むと、遅れておっさんも乗り込んできた。 座るスペースはない。彼はつり革に掴まって、そして気分悪そうにしていた。 あそこで嘔吐でもしたら大変だっただろう。 結局終着駅まで一緒で、降りるときに声を掛けられて、「ちょっと肩を貸して くれ」と言う。そのまま近くの雀荘に入って5時間くらい付き合わされた。 結局あれは何だったのだろう。今でも意味は分からない。 --- これは前にも書いた話。 駅に着くと財布を忘れたのに気付いた。財布に定期券も入れてるのだから、 改札の目前でポケットに手を当ててそこで気附いた。お金も無いのだから 一旦家まで取りにいかねばならない。自転車で片道20分のキョリである。 あまりにも面倒だ。さっき自転車で走った道をまた走る。しかもまた後で 逆方向に走らなければいけないのだ。なんと面倒な! そういえば昨日、この道に猫が倒れていた。もしやと近づくと、内臓が腹 から出ていて、そして文字通り目玉が飛び出していた。車に轢かれたのだ ろう。轢かれたとすると道のもっと真ん中のハズだ。道の傍らに寄せるの は轢いてしまった人がするのだろうか。まさか無視してまた走ることは あるまい。しかし直接見たことはないので何とも言えない。昔から抱く 疑問だ。それからもう一つ昔から抱いている疑問がある。 今日見るとその道には猫の死体どころが血の痕跡すら無い。誰が片付けて いるんだろうか。 「こういうのはもしかして、市役所の担当なのかな」とわざとマジメぶって 言ってみると真剣な顔をして「そうなのかもしれないわね」と言うのは レイカさん。度々現れるこの人は私の数少ない友人である。 「その、犬のフンなんかが道に放置されててさ、そういうのも次の日には 忽然と消えるのよね。それも市役所の人がやってるのかしら」などと 言い出した。 往復40分の道のりを30分で戻ってきた。しかし家で財布を見つけるのに10分は 掛かっただろうから、実質往復20分である。20分掛けての遷移は、この小さい 軽い物体の移動だけである。これはテレポーテションと呼べるのかな、などと 考えていた。しかし遅刻は必至だな。 「そういえば、財布を隠したのはレイカさんですね。他に容疑者はいないん ですよ」 そうとも。大体、いつもは机の上に置いてあるのだ。だから家を出るときに 財布を忘れてたらすぐに気附く。家中を探しまわってようやく見つけた。 財布は枕の下にあった。
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