intime o'

猫には三種類あり、虫を好くのをムコ、魚を好くのをサコ、鼠を好くのをネコというらしい(阿佐田哲也著「麻雀放浪記(一)」より)
風呂場で口ひげを剃った 2011/09/23(Fri.)
私たちはベランダにいて、私なんか気にしないですぱすぱタバコを
吸ってた。月がとても大きくて、まるで近くに見える夜。
風は全く無かったけど、凍えるように寒かった。
「先輩」
先輩は何も返事をしない。「先輩、好きです」
先輩は私の方をちらりと見たけれどまた真っ暗なだけの空を見て煙を吐いた。
「それは嬉しいけれど」吸殻を携帯用の灰皿に入れながら言った。「僕には
他に好きな人がいるからね」「ええ、知ってます。言ってみただけです」
雲の端から北極星が見えた。たぶん、北極星だろう。「寒いでしょう。戻ろうか」
「もう一回麻雀しましょう」

部屋に入ると後輩二人が床に寝そべりながら黙ってテレビを見ていた。
「ほら起きて。麻雀するよ」
「今からですかぁ。僕はもう寝たいですよぉ」
先輩が別の部屋から牌を持ってきた。机の上の物を全てベッドの上にどかした。
「その前に、レートを決めましょう」
「ノーレートでいいでしょう」
「いや、ダメです。ちゃんと、真剣にやってもらわないといけないんです」
「いいよぉ。金なんか無くてもちゃんとやるよぉ」
「ダメです。ちゃんとした麻雀をしたいんです」
少し嫌な空気になった。一人が口を開いた。「まぁ、でも、少しくらいなら」
「1000点100円でどうでしょう。テンピンで」
「それはちょっと高いんじゃないかな」
「じゃあ点5でいいです。だとするとウマも付けないといけませんね。1万と2万
でいいでしょう」
「そんなお金ありませんよ」
私はその一年生を睨んで言った。
「じゃあ、アナタはいいわ。先輩との差し馬にしましょう」
「遊びでやるには高すぎるよ」
「遊びじゃありません。真剣です」皆やれやれって顔をしてる。
「五千円。これでいいでしょう。私と先輩の差しウマです。」

ほとんどツモ牌だけで手作りをして、789の三色をテンパイ。索子の789は明順
だが北の単騎待ちに取ってツモ切りを繰り返した。捨て牌に北は2枚出ている
から山に眠っていると踏んだ。誰かがツモればすぐに出てくるはずだ。
結局、流局寸前に下家から出てきてロン。ドラが一つあったから7700点。
7700点が一番割に合う役だ。ソレ以上はマンガンという頭打ちを食らってしまう。
正当に頑張りを評価されるのが良い。

対面の親。私は少し山に仕込んでみた。私の前の山の上牌にヤオチュー牌を
集めてみた。対面の先輩が降ったサイコロは4。よし、ツイてるぞ、と心で
喜んだ。出来るだけ萬子の一色手に見えるようにタンヤオ材を捨てていき、
8巡目に国士の13面待ち。その2巡後に北をツモり役満のツモである。

半荘が終わり、深く息を吐きながら(それはなんだか、心のなかで「やれやれだ」
とでも言ってるかのように)サイフからお札を取り出し私の前に放り投げた。
「精算は最後でかまいませんよ。どうせ朝までやるでしょう」
「俺もう嫌だよぉ。そんなつもりで来たんじゃないんだよ」
お金を失うのはそりゃ誰だって嫌だ。しかしいざとなってグズるような甘い考え
なら、初めから麻雀なんてしなければいいんだ。

下手に皆が捨て牌に注目してくれるから、こちらとしても工夫のしがいがある
というものだ。いかにも萬筒子の234辺りで待ってる三色手のような捨て牌で
リーチを掛けると対面が9筒を捨て。チートイドラ2に一発で見事振り込んでくれた
実を言うとこの時1枚多牌していた。もちろん手牌を倒す時には机の下にでも隠して
おくのだ。1枚余計にあるというだけで、チートイの出来上がる速度は一気に増す。

次第に皆、捨て牌を読むのを諦めた。そしてどうするかと言えば、ただ不要な牌を
捨てるだけである。こうなるとこちらも気楽である。気楽になると自然と来る牌
来る牌良い牌ばかりになる。終盤になると安全牌ばかりになるという、理想のツモ
牌相だ。そんなことあり得るか、と思いますか。そりゃあ、ツモはただの運だし
ランダムに山を積んだとすれば確率の問題だけれど、良い牌と考えるかどうかは
気の持ちよう、考えようなのだ。

ついに先輩が泣き出して「俺はもう嫌だ。ウマだけで五万の損だ」
「麻雀の損は、ギャンブルで取り返せばいいそうですよ」と笑いながら
言ってやったが結局その日はおしまいということになった。
目の前には三万と五千円が置かれた。
「足りない分は、今度払います」と言ってあるだけの小銭を払おうとしたが
小銭は邪魔なだけなので断った。それに、三万もあれば、十分だ。
冷蔵庫からビールを一本抜いて、「貰いますよ」とだけ言って奥の部屋で寝た。
目が覚めると外が真っ白に明るくなっている。
どこに行けばいいのかな。
玄関の靴箱の二番目の段の奥が先輩の車のキーの隠し場所
どうせなら海まで行ってやろう。
私は輸送トラックくらいしか走ってない道路で車を飛ばした

コメ(0) | トラ(0)