intime o'

それなら第一条のはずよ (ルイス・キャロル著「不思議の国のアリス」より)
自転車に乗りながら腕時計を見ていた 2011/10/19(Wed.)
嘘を付くことと黙っていることは違う。
例えば我が家にはそれについては触れてはいけないタブーがあって、そのこと
を親に聞くと急に笑って「いいから今日の夕食はなんにしましょうかね」なんて
ごまかす。決して嘘は付かない。「周りに何か言われたら、父親は死んだことに
しなさい」とも言われた。

この時間はいつも主婦層によってレジが混む。どのレジなら早く済むか。
一番並んでいない手前に並んだが一つ前の人のカゴを覗くとめいっぱい
入っていて時間がかかりそうだ。その一つ奥は一番人は並んでいたが
最後尾の人もその一つ前の人も買うものが少なくてココが一番早く済む
と睨んだ。そうしてすぐに私の後ろに人が並んだ。
「たぶん、向こうの方が早いですよ。買い物の量があっちの方が少ない」
男は一瞬たじろいだが、すぐに笑って答えてくれた。
「ならあなたがあちらに並べばいいでしょう」
「いえいえ、私があっちに並んだら、今度はこっちの方が早いですよ。
だって私がこっちに並んでることを前提に言ってるのですから。あちら
の方が早いと思うな。どうしてこちらが早いと思ったのですか?」
すぐに気づいた。あっちはレジの人が新人のようだ。こっちは随分昔から
レジ打ちをしているおばちゃんだ。
「レジの人が、こっちの方が早い。そう考えたんですね」
「えぇ、まあそうです」
そうして私の精算の番になって、ふと向こうのレジを見た。
「ああ、あっちの方が早かったですね」
男は黙って笑っていた。すると小さい女の子がお菓子の箱を両手で持って
私と後ろの男の間に割り込んできた。「ねえ君、横入りはいけないな」
その女の子に言ってやった。女の子は理解しないようで、泣きそうでも
あったが、向こうのレジに並び直した。男の方を見やるとなおも笑っていた。
ふと携帯にメールが着ていたことに気づいた。読んでみると、ずっと昔に
どこかに消えた父親の死去の知らせであった。父親との思い出は何一つ無い
からこれと言った感情も無かった。

遠くで誰かが叫んでいた。
この電池蓋に合う携帯電話をお持ちの方はおりませんかーー!

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