intime o'

恩に着ることなんか、この世にあるわけはないよ(阿佐田哲也著「麻雀放浪記(三)」より)
捨てるもの 2011/11/22(Tue.)
抱負なんてどっかに捨ててしまった。捨てるのはそれじゃないだろうに。
文学の中に生きたい。
カバンにいつも入れている覚書帳に抱負を書き写した。
時計を見るともう17時で、待ち合わせは何時だったか、携帯のメールを
確認すると17時とあった。どういうルートで行っても間に合わないだろう。
そうだ、ルート。その待ち合わせ場所までの生き方すら検索してないのに。
そうだ、まず遅れることをメールで連絡して、
その前にお風呂も入ってない
どんな服を着よう

……
「僕ってそんなにつまんなそうな顔してる?」「うん。してるしてる。なんか
もう人生つまんなそうで諦らめてる、っていうか、そんな顔。そしたらもう、
この飲み会までつまんないって言ってる顔よ」「人生よりこのこの飲み会の方が格
上なの?」「え?私そんなこと言った?」「言ったじゃないか」「言ってないわ
よ」「だって、人生がつまんなかったら、飲み会もつまんないみたいな、ん?
あぁ、そうか。人生は飲み会を包括してるから人生が格上でいいのか。
寒いと頭がうまく働きません。 
	//大学受験はどうして冬なんかにやるんだろう。
	//わざと悪い環境でテストするのだろうか

『人生がつまらないならば、飲み会がつまらない』だな。なるほどな」「そん
な面倒くさいこと考えて飲んでたの?だからつまなそうな顔なのね」でも私が
その時考えてたのはただ、ドラがヤオチュー牌だと面倒くさいな、だってタン
ヤオを狙え無いじゃないか、ということだった。例えばドラが九の時に六を早
々と捨てるとはどういうことか。六八と持っていてここにドラの九が来たら、
メンツを作るのにどっちにしろ七待ちなだけだからドラを絡ませた七八九を大
事にしたい。だからと言って必ずしも六が必要無いわけではない、のだが、捨
てたというコトはその色のメンツはそれ以上必要ない、三色か、あるいはとに
かくもうメンツ候補が4つ確定しているのか。斜め向かいに座っていた彼女は
高校がどうだとか本当にくだらないと思えることを騒がしいお店の中で一所懸
命声を張って私に質問してくるのだ。

閑話休題。
別の団体客の話を盗み聞くのは、楽しい。
「狼さん、狼さん」赤ずきんは言いました。
「そこはお祖母様のベッドよ。どうしてあなたがそこで寝ているの?」
笑い声。
向こうは他の人に聞かれてるだなんて思ってもないだろう。
大声で馬鹿話をしている。

私は頭の中で、キーボードの[i]のキーを押した。
昨日に行ける気がした。

この2行の文は、自分が今日の朝、いや昼か、布団の上でそろそろ起きようか
躊躇しながら寝転がっていて何となしに頭に浮かんだ言葉だ。ある昔の詩人が
子供の頃、自分で詩を初めて書いて「これは正しく詩だ!僕が作った詩だぞ!」
と喜んだという昔話を読んだことがある。それと同じような感動があった。確かに
ただ違うのは、自分はもう子供でじゃないということ。そういえば昨日は誰とも
口を聞いてないな。昨日に戻りたい。

斜め向かいに座っていた彼女はいつの間にか別のテーブルに移動し談笑していた。
決して、別に彼女に特別の興味を抱いていたわけではない。確かにこの場に女子が
二人しか居ないという特別の意味を寄与することはできるが、決してそんなことを
思っていたわけではない。ただ私に少しの興味を示してくれていたことに、彼女に
興味を示すことで返すのが礼儀だと思ったから。
すっかり話し相手を失って、友達関係の交換律を疑った。

「まだ現実を甘く見ているの?」
「また裏切られたんだ。今度こそ身にしみたよ」「また周りを信じない?」
「ああ、僕は、僕以外を信じない。今度こそ本当だ」
「ああもう、救いようがないわね」「本当だね」彼女は冷蔵庫からケーキを
取り出した。昨日スーパーで買った二割引きのやつだ。
「信じるとか信じないとか、そうじゃなくて」「そうじゃなくて?」
「はあ…。別に今に始まったことじゃないけどさ」とケーキを一口分、フォーク
で私の口の前まで持って行ってから自分の口に持っていく。彼女のささやかな
遊戯だとわかっているので、わざと騙されるフリをして口を開けて、ケーキを
追ってみせてみる。
「問題を簡単にしたがるのね、あなたは。それが少し極端なの。ちょっと異常
よ。病気よ。その偏執症治さないと何時まで経っても子供ね」とさんざんに罵る。
「つまり、受け入れないといけない。この面倒な世の中を」
「とかくこの世は生きにくい、ってね」「とかくこの世は不条理だわ」
ケーキの上の苺を皿の端に避難させておき、ケーキの三分の二ほどを食べた後、
残りのケーキスポンジの上にイチゴを載せてみるのが彼女の食べ方だ。
「でも不条理な世の中というのは自然よ。人間社会じゃ、ないわ。むしろ逆。
人間社会はその自然を否定するように自然発生した。不条理な事象を秩序正しく
処理しようとするわ。法律なんていい例よね」「法律は嫌いだ」
「あなたは自然が好きなのね」
自分はこの彼女という登場人物が言ったコトをまるで信じてなど居ない。 

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