intime o'

あの立派な知識はことごとく昨日の夢である!(ラ・メトリ著「人間機械論」より)
死神の話 2012/08/29(Wed.)
 死神などというものを見たことがあるでしょうか.その姿形について
いろんな想像があるでしょう.私は見たことがあるのです.全身
黒い服に見を包んでおり、服からちらりと見える細すぎる手首から
先は不健康に白い.別に鎌なんてものは持っておりません.
そこにいるのかなんだかよくわからない存在感の薄さで、
吹き出した薬缶の上には蒸気が存在するのと同じくらいの感じを
受けます.

さて私は文化祭の前日まで何をしていたのかと申しますと、自転車で
小旅行をしておりまして、四国から神戸の実家まで帰る途中だったのです.
旅の者用に開放している施設があり、私はそこで休憩することにしました.
公民館の二階のようなところでした.見るとブラウン管のパソコンが
3つほどあるようで、誰もいないので特に断ることもなく、ひとつの
パソコンの前に座ってさっそく天気や今から辿るべきルートの確認など
をしておりました.調べ物をしている最中に私と同じような人間が二人程
入って来ましたが気にはしていませんでした.10分くらいたって私は
無限降下法について検索していると後ろから画面を覗く者がおり、
振り返ると中年くらいの女性で、ここの施設の管理をしているものだろうと
私は勝手に思いました.女性はゆっくりしていってくださいと言っており
ましたが、私はなんだか恥ずかしくなり、早々に出ることにしました.

午後七時でしたが、もう外は真っ暗でした.
眠くなるヒマを惜しんで自転車を漕ぎ続け、家に着いたのは次の日の
朝三時でした.家にその日のシャワーの心地よさを今でも覚えております.
髪も乾かさずに寝たので、目が覚めるとひどい寝癖でした.その日は
文化祭の前日で、設置準備がありました.単なるバイトなのです.
お昼少し前に学校につくと、もう段取りの説明をしており、私も
こっそり席に着きました.その教室において、あんまりくだらない
事件が起こり、私を含む三人に窃盗の容疑が被せられたのですが、
これは省きます.私のジョークを理解してくれなかったのが悪い
のです.結局容疑は容疑のままでその事件は無かったことになったので、
大方盗まれたのは何かの勘違いだったのでしょう.

その後の設置やらの準備は大いに手を抜いてそれでも太陽の下に
いるだけで体力は減るものです.皆がぞろぞろと帰りだしてるのを
見て私もなんとなく流れる方に流れると友人に出会いました.
この友人とは高校から予備校、そしていまの大学にいたるまで
同じなのですが、予備校の頃から話す機会は減っていました.
最高で話したのは五分程度じゃないでしょうか.どちらかと言えば
私が彼を避けているのかもしれませんし、彼が私を避けているから
私が彼を避けてあげたのかもしれません.それはただの思い込み
かもしれません.しかしこの友人と出会わなければバイトの給料を
この場で実行委員会から手渡されることを思い出さずに帰っていた
でしょう.私と目が合うと、はっぴを着た男は私に大きな封筒を
渡して、その時「はい二万」と言ったのです.一日働いて二万円なら
割のいいバイトだっただなんてその友人と話していて、駅の前くらいまで
来たくらいに何気なしに私は封筒の中身を見たのです.全てコイン
でした.指でつまんで取り出して見てみると、ただ両面に星が
描かれているだけのコインで、コレはどう見てもゲームセンター
なんかで使うコインだろうと思ったのです.どこかで経営されて
いるゲーセンでこれを使えと?友人は苦い顔をしましたが、結局
帰って行きました.納得出来ない私は、いえ、考えを持った私は
先ほどこの封筒を受け取った場所まで戻りました.そこにはやけに
肌の黒い実行委員長がおり、直接彼と話すことにしました.

私は一か八か、向こうの事情を全て分かってる風に、
「委員長、これ、脱法的換金してくれない?」
というと委員長はあっさり観念したように、壁にはってある模造紙
を指さしました.模造紙には手書きでレートが書かれてあるようで、
一旦何か景品と交換させるように見えました.こいつらは学校で
三点方式をするなんてとんだ悪党だと思い、無性に腹がたったのです.
そう言えばこの封筒を渡された時に、封筒の中身に二万円があると
思い込んだのは渡す人が二万、とはっきり言ったからであるが、
円という単位は口にしなかったのだ.ではどういう単位なのか.
実行委員の肩に手を回し、逃げないように、もっとも彼はこの学校で
有名になりすぎたので、逃げようがないだろう、そして私は尋ねた.
「あの単位はどうなってるのかな」
どうやらこれが彼らの仕組んだ穴であり、逆にそこをつつけば
弱点でもあったようだ.委員長は非常に弱ったようで意味の分からない
ことを言っていた.
「単位は…単位はイチだよ」
「へぇ、じゃあこの数字とこの数字の単位は?どうなってるの?」
「全部、全部イチだよ」
「えぇ?この数字は千の位にあるように見えるけど、これもイチなの?
千は千だと思うんだけどなあ」
「ところでさ、これ、換金してくれない?」
「できないの?それじゃあ、きみ犯罪者だよ?」

奥の、昼に説明があった教室を見てみるとホワイトボードに日程が
書かれてあった.この文化祭は恐ろしいことに二週間以上ある.
「1/24 - 2/13」 という文字の右上に「目指せ一ヶ月!」などと
書かれてあった.私はなんだか目の前の実行委員長が哀れに思えてきた.
心からがんばれと声を掛けてやりたくなったのだ. 

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