日記「芦」

暮らしにくけりゃ、暮らさなきゃいいんだ。(阿佐田哲也著「麻雀放浪記(三)」より) ある日の風景 2011/6/30(Thu.)
私がかつて見たある風景を思い出した。
商店街と住宅街の境みたいな道を私は歩いていた。道は少し坂道になっていて、
私はたぶん、その坂を上って向こうに行こうとしたけれど、見てみると行け
そうにないので諦めて引き返そうとしていたんだと思う。道沿いにあった
赤い看板のお店が妙に記憶にのこっている。かと言ってどのお店も閉まって
いて、自分以外に人の気配が無かった。その明るさから言って、恐らく
朝早くなのだろう。
 しかしどうして私は一人でそんな所にいたのか。私は小さな頃から散歩
が好きである。時間に自由であれば、迷子になるのだって楽しい。積極的
に知らない道を使ってみるのだ。だからたぶん、朝早くからどこかに用事
があって、時間的に余裕があったから、坂を上って行ってみようとでも
思ったのだろう。
 あれは、神戸だろうか。もしかしたら福岡かもしれない。いや、福岡
にいたのは小学生である。小学生が一人で知らない街に出るだろうか。
たぶん、神戸か、もしかしたらあれは、旅行先での風景かもしれない。
なにしろ記憶が曖昧で、或いは夢で見た風景なのではないかとも思い
始めている。
 夢は、全く新しい世界を作る。起きているときに経験したことの復習
だけではない。夢が、それがまた一つの経験なのだ。人は夢の中で妄想
し、見たことのない新しい街を作り、私をそこに立たせる。きっとそう
思う。

人も猫もいない、私一人の世界だった。
坂道を引き返し、私は歩き慣れた大道に戻って再び目的地に向かうこと
にしたが、結局、目的地には辿りつかなかった。今来た道を戻ってる
のに、私はますます知らない街の中に入っていってしまうのだった。

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