日記「芦」

原点でいいじゃないか。それが生きるということだ(阿佐田哲也著「新麻雀放浪記」より) 比較文学論・抄 2011/7/13(Wed.)

比較文学論

2011/4/19 例えば 『吾輩は猫である』  実在人物: 夏目金之助  作者: 夏目漱石  語り手: 「吾輩」 実在人物、作者、語り手が同じであるとは限らない。 一人称小説では物語世界の中に「私」がいて語る。 三人称小説ではその外に語り手がいる。 // 二人称小説というのも少なからずある。 浦島太郎の話。 「異界に行く→女に歓される→現実に戻る→身を滅ぼす」という "Venus Mountain"と呼ばれるよくある話型である。泉鏡花の「高野聖」 とかもそう。 太宰治『お伽草紙』昭和20年 「前書き」→「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」 「前書き」によると、語り手は作家であり、絵本を元にして話を 作っていくらしい。 「浦島さん」では作者が浦島太郎の話を読んだことがあるのが前提。 つまり、「物語内容」という前提を共有される空間を設定してる。 「浦島さん」の特徴として、登場人物(浦島さん、その兄弟、亀、私) の性格、内面、設定が詳しい。「私」は長々と語る為の語り(亀の種類 の考察とか)をしている。しかも「私」は自分の存在を強く主張する。 語るという行為自体が語られているのだ。 亀を語る行為を「物語行為」 作品に登場する亀への性格付けを「物語言説」 亀を「物語内容」 という。 story E.M.Forster(小説家、批評家)は、Aspects of Novel
The king died and then the queen died. The king died, and then the queen died of grief.
上の英文をstory、下の英文をplotであるとした。 storyはeventを時系列に並べただけのものであり、plotはcausality (因果関係)が含まれている。 // eventとは、それを挟んで状態が変わるような出来事 eventの順序を小説では無視して語っても構わない。工夫を加えた 提示の仕方をdiscourseと言う(Chatman)。 物語言説…時間の処理、因果関係の説明、人物造形、視点の取り方 、話法、物語の方向付け(grain)、など。 例えば、『桃太郎』では、桃太郎はいい人であると読めるように、 感情移入できるように物語の方向付けがなされている。 // 芥川龍之介の『桃太郎』や志賀直哉「クローディアスの日記」 // などではこの方向付けをわざと逆に解釈したような物語に // なっている。 テクスト編成 村上春樹『アフターダーク』や安部公房の『箱男』など、 文字だけではないものを助けとして小説を理解させる。 図、絵、写真、文字の組み方、フォント(字体、大きさ) 装丁、帯など。 また、装丁と帯のことをパラテクストという。 * 物語内容 * 物語言説(語りの工夫) * 物語行為(語自体が語られる) * テクスト編成(段の組み方とかヴィジュアルな事) この四つを相という。 視点 『吾輩は猫である』…一人称「私」が語る。 語り手が知覚(五覚)したものが語られる。 知覚には味覚も含まれる。開高健「ロマネコンティー」や 谷崎潤一郎「美食倶楽部」は味覚小説と呼ばれる。 「幻想の盾」…三人称小説。語り手は物語世界と独立に存在する。 語り手の素性も問題となりうる。知覚の担い手は登場人物である。 夏目漱石「心」…一人称「私」の語り。 物語世界の中の「私」。物語世界の中に遺書が入れ子になっていて、 遺書の中の「私」がまた語る。 「道草」…三人称小説であるが、知覚の担い手が気づいてないこと までが語られている。 「誰が語るのか。」「誰が知覚するのか。」 この二つを"restriction of field"と言い、 これによって分類することを"focalization(焦点化)"と言う。 登場人物の運命や心理を語る行為は、あたかも神が物語世界を覗いて いるかのようである。この語り手を"omniscient narrator"(全知の語り手) と言う。この場合、焦点化がなされていない。 焦点化の種類は3つ ・focalization zero(non-focalization)  …焦点化なされない ・internal focalization(内的焦点化)  …知覚、経験、思考に限定して語る ・external focalization(外的焦点化)  …登場人物の外見、行動、発話に限定する Narrator or Character, which has more knowledge? ・focalization zero … narrator > character ・internal focalization … narattor = character ・external focalization … narattor < character internal focalizationの特徴として次の三つ。 ・fixed(制限) 物語を通して、登場人物の知覚、経験、思考に制限する。 Henry JamesのWhat Maisie Knewでは、Maisieの体験にのみ 語りが制限されている。子供なので理解できないがそのまま語られて いる。読者にはそれが理解できて面白い。 ・variable(交替) focal character(焦点化された人物)が変わってく。 ・multiple 一つの事件について多くの人が語る。 黒澤明『羅生門』(映画; 原作:芥川龍之介『藪の中』) などでは色んな立場の人が事件について語る。それが食い違ってて 面白い。 “I” 一人称の語り手"I"はnarratorでかつ、characterである。しかし、 narrating I(語る「私」)はexperiencing I(経験する「私」)より 未来の人物であるから、当然、話中の事件の行く末を知っている。 つまりknowledgeは「narrator > character」となる。 focalization zeroと区別して"Pre-focalization"と呼ぶ。 Balの概念 語り手はsubject(主体)と登場人物はobject(客体、対象)である。 subjectをfocalizer(焦点化する者)、objectをfocalized(焦点化される者) とする。 三人称の語り手は 語り手(focalizer)→[登場人物(focalized)] …外的焦点化 // →が知覚の向き。 // []の中が物語世界の中 一人称の語り 語り手(focalizer)  ↓ [登場人物(focalized)=登場人物(focalizer)→登場人物(focalized)]   …内的焦点化 focalizerはperceptible(知覚可能)とimperceptible(知覚不可能)との 二つがある。前者は見た目とかで、後者は人の心とか。 物語のレベル(階層) 物語の中でまた別の物語が展開されるのを「枠物語(frame narrative)」 という。例えば、物語の中で語り手である「私」が「彼」を焦点化して いると、彼が昔の思い出話をしだす。そのお話は「彼」が「私」となっ て語られる。 ┌────────┐ │私─→彼    │ │  ┌┼───┐│ │  │私   ││ │  └────┘│ └────────┘ 物語世界を一つの枠で表すと、枠の中に枠が「入れ子構造」になっている。 「千夜一夜物語」なんかはそれがひどくて、何重もの入れ子になっている。 物語世界をレベルで考えることもある。初めの物語はある高さを水平に 走っていて、その中で語られるまた別の物語は、一つ下の高さを水平に 走る。  外の話        また外の話 ────→│ 内の話 │─────→      │────→│ 語り手の位置 外枠の外をextradiegeticといい、三人称小説の語り手はここにいる。 外枠の一つ内をintradiegeticといい、一人称小説の語り手はここにいる。 入れ子になった枠の中をmetadiegeticといい、枠の中の「私」はそこにいる。 intradiegeticの中の文をPT(Primary text)、metadiegeticの中の文をET (Embedded text)と言う。 1. ETがPTを説明をする 2. ETがPTに影響を及ぼす 3. ETとPTが似る(ETがPTを予告する) などして、枠物語は機能する。面白い。 Poe, The Fall of the House of Usher (『アッシャー家の崩壊』) では、地の文Aの中に本の世界Bが入れ子になっている。AとBの話が交互に 語られるが、Bで起こりつつある出来事がAでも実際に起こる。 これは、上で言う3番の機能である。またこのAとBの関係をmirror textと 言う。 語り方 プラトンは語り方について次の二つを定義した(Plato, The Ideal State)。 Diegesis: 詩人が自分自身で語る(語り手が語り手自身として語る)。 Mimesis: 詩人が他の誰かを真似て語る(語り手が登場人物の一人で あるかのように真似て語る)。 Diegesisは直接話法、Mimesisは間接話法のこと、と考えて問題ない。 登場人物の発話や心内語がどっちであるか。 直接話法(Direct speech): 発話を直接引用する 間接話法(Indirect speech): 発話を地の文に混ぜて言う。 自由間接話法(Free indirect speech): 発話をもっと言い換える。 Elizabeth said, "I'll be able to find to go out with you tomorrow night. Elizabeth said that she would be able to find to go out with him the following night. 発話を次のように、もっと別な分類をする。 Reported Speech: 引用された発話 Transposed Speech: 言い換えられた発話 Narratized Speech: 出来事として語られた発話 例として Reported: 「ハロー」と彼は言った。 Transposed: こんにちわ、と彼は英語で言った。 Narratized: 彼は英語で昼の挨拶をした。 時間の処理 出来事の時系列通りに語る必要はない。次の3つの処理の方法がある。 1. 順序(order) 2. 持続(duration) 3. 頻度 1.順序 先回り(prolepsis)と後戻り(analepsis)の二つが考えられる。 「語りの今」もしくは「物語の今」という時点から、過去もしくは 未来に語りの時点を移る。その移動距離を「射程(reach)」という。 移動した先からの語りの時間を「振幅(ampitude)」という。 Analepsisでの例   ┌──←─射程──←──┐   │           │ ──┼───────────┼─→時間   └─振幅→┐     語りの今        └─→戻る─→ 「これが、20年の間で彼女に突き放された最初だった」 という文は、これから20年の間、なんども突き放され続けることを 予告している。予告も、一つの先回り(prolepsis)である。 2. 持続 物語言説の時間の持続(物語る時間)と、物語内容の時間の持続(物語ら れる時間)とを比較する。前者をA、後者をBとしよう。 例えば、高校3年間を30分で語るとすると、A=3年, B=30分である。 小説に於いて、物語る時間Aとは、読者がテキストを読む時間である。 AとBは普通は一致しないが、カギ括弧付きの会話のセリフなら一致して もおかしくない。 A≪B(A=0) …省略 A<B …要約 A≒B …情景 A>B …延引 A≫B(B=0) …休止 transposed speechは発話を要約して再現したものだと考えられる。 新しい登場人物について(容姿、着物について)語ったり(現代小説 だとこういう描写はあまりしないね)、新しい場所について語る間に 何か出来事が進行することはない。つまり休止である。 3. 頻度 三つのパターンがある。 a) 1回の出来事を1回語る/n回の出来事をn回語る b) 1回の出来事をn回語る。 repetition(繰り返し) c) n回の出来事を1回語る。 iteration(括り) 以上。

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