日記「芦」

「苦しいことは分かち合い、楽しいことは独り占め」じゃ。(中島らも著「超老伝 カポエラをする人」より) 数理科学IV - 期末試験 2011/8/1(Mon.)
2011年前期。

数理科学IV - 期末試験

① V,Wを複素ベクトルとして、a[1], .., a[m]∈Vとする。
 線形写像f:V→Wに対して、f(a[1]), .., f(a[m])が一次独立なら、
 a[1], .., a[m]も一次独立である。これを示せ。

② Aを複素数を成分とするn次正方行列とする。Cn上の線形変換Tを
 T(x)=Ax (x∈Cn) によって定める。
(1) 複素数αがAの固有値であるとき、対応する一般固有空間W(α)の
 定義を記せ。
(2) W(α)がT不変であることを示せ。
(3) α≠βの時、W(α)∧W(β)={0}であることを示せ。

③ 行列[1,a,0; 0,a,0; 2,-a,3]が対格可能であるaの条件を求めよ。

④ 複素数を係数とする2次以下の多項式の空間をVとする。
 V上の線形変換Tを次で定める。
 T: f(x)∈V → f(x+α)∈V (αはある定数)
(1) Vの基底を{1,x,x2}として、Tの表現行列を求めよ。
(2) α≠0として、Tの表現行列がジョルダン標準形になるようなVの
 基底を求めよ。

⑤ 複素数の異なるa,bに対して、xの多項式を成分とする次に記す
2つの行列の単因子を求めよ。
A = [x-a,1; 0,x-a]
B = [x-a,0; 0,x-b]

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以下は私が作成した解答。

① 複素数の係数k[1], .., k[m]を用意して
 k[1]a[1]+..+k[m]a[m]=0
とする。
これを満たすkが0でしか無いことを言えば、aの一次独立が言える。
f(a)の一次独立を使いたいので、上の式の両辺にfを掛けると
 f(ka)=f(0)
 ⇔ kf(a)=0
f(a)は一次独立なのでk=0である。
よってaは一次独立。

②
(1) 一般固有空間の定義は次の通り。
 W(α) := {x∈Cn | ∃k∈N s.t. (A-αE)k・x=0}
問題文でAを使ってるから使ったけど、Tを使うなら
(A-αE)が(T-αI)になる。αIは略して単にαとも書くかもしれない。

(2) T不変である、とは、「 T(W(α))∈W(α) 」が成り立つ、ということ。
任意のx∈W(α)に対して
 y = T(x) = Ax, y∈W(α)
であるか?
xがW(α)に属することで有する性質は
 (A-αE)k・x=0 (kはある自然数)
両辺にAを掛けて
 A(A-αE)k・x = A・0=0
AE=EAだから、左辺はk乗の項を展開して、左から掛けたAを
右から掛けたことにして、また因数分解すれば
 (A-αE)kAx=0
 ⇔(A-αE)ky=0
yもxと同じ性質を持っている。つまり、
 y∈W(α)
である。
よってW(α)はT不変である。

(3) あるx∈Cnについて
 x∈W(α) かつ x∈W(β) かつ x≠0
となるようなものが存在するとする。

x∈W(α)なんだから
 (T-αI)kx=y≠0
 (T-αI)k+1x=0 (つまり(T-αI)y=0 )
となるような整数kが存在する。

xがW(β)に属するんだからyもW(β)に属する。
∵y = (T-βI)k・x
Tm・xは、W(β)のT不変性から((2)で示した)W(β)に属する。
またW(β)の元の定数倍、元同士の和は、W(β)が線形空間であること
から自明。
よって
 y∈W(β)
である。
つまり、ある自然数mで
 (T-βI)m・y=0
が成る。
(T-αI)y=0 ⇔ Ty=αy
を先の式に代入すれば
 (α-β)m・y=0
α-β≠0だから、y=0。
しかし先にy≠0としたはずだから矛盾である。
よって仮定したxが存在しない。


③ 「行列が対角化不可能ならば、その行列の固有方程式は重解を持つ」
は真である。逆などは一般には成り立たない。
つまり、「重解ならば対角化不可能」はたまに成り立たない。
カンタンな例は単位行列。

対角化不可能であるコトを過不足無く調べるには、
(i) 固有方程式が重解を持たない
(ii) 重解を持つときのそれぞれの場合
を調べればよい。
今、行列は3次なので(ii)は多くても二通りである。

固有方程式は
 (x-1)(x-3)(x-a) = 0
である。
a≠1,3の時、重解ではない。固有値を3つもち、それぞれに一次独立な
固有ベクトルを持つので、対角化可能だ。

a=1の時、これを代入した行列は
A=[1,1,0; 0,1,0; 2,-1,3]
固有値は1(重)と3。
3の時は固有ベクトルが1つあるので、1の時の固有ベクトルが2つあれば
対角化が可能ということ。
(A-1E) = [0,1,0; 0,0,0; 2,-1,2]
これはrankが2で、つまり独立な固有ベクトルは一つしか作れない。

a=3の時、これを代入すると
B=[1,3,0; 0,3,0; 2,-3,3]
固有値は1と3(重)。
やはり3に対する固有ベクトルの数だけ数えればいい。
(B-3E) = [-2,3,0; 0,0,0; 2,-3,0]
でrankが1である。独立な固有ベクトルは二つ作れる。
(例えば[3;2;0]と[0;0;1])

以上から、対角化可能なのはa≠3の時。

④ Vの元は、二次以下の多項式、つまり
 a+bx+cx2
と表されるようなxの多項式である。
(a,b,c∈C)

(1) 基底を{1,x,x2}とするなら、
Vの元(a+bx+cx2)は[a;b;c]と表される。
	(φ:(a+bx+cx2)→[a;b;c])
T(a+bx+cx2)がA[a;b;c]を表すようにすればいい。
	(A・φ=φ・T ;可換図てきに)
T(a+bx+cx2) = a+b(x+α)+c(x+α)2
  = (a+bα+cα2)+(b+2cα)x+cx2
これは[a+bα+cα2; b+2cα; c]を表す。つまり
A[a;b;c] = [a+bα+cα2; b+2cα; c]
となればよい。
これは、何となく解けて、
 A = [1,α,α2; 0,1,2α; 0,0,1]
である。

(2) うまく基底をとれば、表現行列(Jとする)はJNFになる。
Jの固有値はAの固有値と一致して
固有方程式を解くと、固有値は
 x = 1 (三重解)
だから、次のようなジョルダンチェーンになる。
 u[3]→u[2]→u[1]→0
"→"は(T-1・I)を左から掛けるコトを表す。
また、u[1], .., u[3]∈V
これを参考にして、次の連立方程式が書ける。
Tu[1] = u[1]
Tu[2] = u[2]+u[1]
Tu[3] = u[3]+u[2]
これを解いて、J=[u[1], u[2], u[3]]とすればそれが答えである。

一つ目の式から順に解くのが正しいだろうけど、
Tu[1]=u[1] ∴u[1]は定数
Tu[2]=u[2]+(定数) ∴u[2]は一次式
Tu[3]=u[3]+(一次式) ∴u[3]は二次式

u[1]=1くらいに置いてみて、それを代入するとu[2]=x/α。
ちょっと汚いからu[1]=αに置き直して、u[2]=x。それを代入してu[3]求め
よーって思ったけどちょっとめんどくさそうなので、逆に

u[3]=x2とする。
u[2]=T(u[3])-u[3] = 2αx+α2
u[1]=T(u[2])-u[2] = 3α2

と、上手く行った。おめでとう。

⑤ 単因子の意味は理解してるものとして、つまり行列を列または行に関する
基本変形しまくればいい。"~"はその基本変形の前と後の関係を表す記号とする。

A = [x-a,1; 0,x-a]
~[1,x-a; x-a,0]
~[1,0; x-a,(x-a)2]
~[1,0; 0,(x-a)2]
これが単因子行列であり、求める単因子は
d1(x) = 1
d2(x) = (x-a)2
である。
/*
 読んだ本のいくつかではd(x)=1はカウントしなくて
 例えば上の例では
 d1(x) = (x-a)2
 が単因子である、とされていた。
 でも授業では1も含めてたので、それに倣った。
*/

B = [x-a,0; 0,x-b]
~[x-a,x-b; 0,x-b]
~[x-a,a-b; 0,x-b]
~[a-b,x-a; x-b,0]
~[a-b,0; x-b,(x-a)(x-b)/(a-b)] ;a-b≠0
~[1,0; x-b,(x-a)(x-b)/(a-b)]
~[1,0;(a-b)(x-b),(x-a)(x-b)]
~[1,0; 0,(x-a)(x-b)]
これが単因子行列で、単因子は
d1(x)=1
d2(x)=(x-a)(x-b)

以上。

コメ(0) | トラ(0)