日記「芦」

腐る一歩手前、紙一重のところが鴨肉の一番うまいときなのです(中島らも著「超老伝 カポエラをする人」より) 数理科学IV 2011/8/4(Thu.)
 ずっと渋っていたが僕はこの春からこの病院に通院することになった。
ずっと迷っていた。それはつまり、自分の病気を認めることでもあり、
なんとなく、服従することでもあったから。今考えれば、そういう思考
自体が病気の一つだったのだろう。通院し始めてから三週間になるが、
本当に来て良かった。薬を飲んでカウンセリングを受けて、僕の生活は
ずいぶん人間らしくなった。
 奇妙ながら、友だちも出来た。病院の待合室で時々顔を合わしていて、
一週間もしない内に、彼女の方から話しかけてきた。
「ねえ君」
私に話しかけてきてるとは思わなかった。あるいは、普通に人と話す
くらいの声量で独り言を言う人なのかと思った。どんな人だろうと
思うと、顔の半分を占める程の大きさをした丸いメガネを掛けた女性
が私の方をじっと見ていた。

「えーと、はい?」
「私のこと見て」
戸惑ってしまった。しかし見ろと言われたのだから見た。怯えるような
目をしていた。
「ええと…、」
「私、病人に見える?」
「はい?」
「私、病気に見える?」
「いえ、見えませんが」
「そうよね。私は病人じゃないの。でも無理やりここにいさせられるのよ。
よかったら一緒に来てくれないかしら」
彼女はいきり立って、髪をかき上げた。肩にかかるほどの長い髪だという
ことに初めて気付いた。
「いえ、私が言ったのは病気に見えないと言っただけで、病人に見えない
と言ったわけではありませんよ」
「どっちも同じでしょう?」
「病気を持ってるかは外見ではわかりませんが、通院してるのを見れば
誰だって病人だとわかります」
「そんなのズルイわよ。場所は関係ないでしょう?私だけを見てよ」
ドキッとした。

医者が言うには彼女は、初めて会った人には必ず声を掛けて、一緒に
彼女が病人では無いことを医者に訴えるようお願いするそうだ。
そんなことをしたって意味ないのに。

ある時、私が待合室で数学のレポートを仕上げていると突然、話しかけて
きた。
「微分ってのはね、所詮、線形変換なのよ」
確かに微分の問題を解いていたが、「線形変換」という言葉は初耳だった。
「線形変換ていうのはねえ、まあ、大雑把に言うと、
y=f(x)
ていう関数があるわね。fは実数xを実数yに変換するの。まあ、xやyは実数
に限らないんだけど、そうね、一応複素数ってことにしましょう。
xがXという範囲の点なの。その範囲の中のどの点についても
y=f(x)
によってyが決まるのよ。そうすれば、fはXという範囲をどこかYという範囲
に移せるの。このfを変換っていうの」
「線型というのは?」
彼女は私のノートをひったくって式を書きだした。大事なノートなのに。
f(cx)=c・f(x) (cは定数)
f(x1+x2)=f(x1)+f(x2)
「これが任意のx、任意の定数cで成り立つコトが線形の定義よ。
上の式はスカラー倍、下の式は和を表してるのね。ほとんど
の教科書にはこう書いてあるわ。でも、まとめしまって、こう書いても
いいと思うの。」

彼女は今書いた二つの式を四角い枠で何度もぐりぐり括って、そこから
矢印を生やした。その先にこう書くのだろう。
∀c1,c2∈C, ∀x1,x2∈X
s.t. c1・f(x1)+c2・f(x2)=f(c1・x1+c2・x2)
「これが線形変換。」
「ふぅん…」
「だってこれ、すごく線形でしょ?」
でしょ?って言われたって困る。

「じゃあねぇ
f(x)=ax
とするでしょ。あ、xの範囲は実数全体。aも実数の定数としましょうね。
これは、線形変換?」
「そうみたいですね」
「ほら、確かめてみて」と彼女は鉛筆を渡してきた。
「尖った方を人に向けないで下さい」
僕はノートに書いてみせた。
f(x1+x2) = a(x1+x2)=ax1+ax2 = f(x1)+f(x2)
f(cx)=a(cx)=c(ax)=c・f(x)

「さっき微分は線形変換とおっしゃいましたね」
「ええ、確かめてみる?」
「線形変換もf(x)と書くのでしょうか?」
「もちろんd/dx(ディーディーエックス)と書いても構わないけど、
よく本ではD(ラージディー)で表されてるわ。つまりf(x)の導関数を
D(f(x))で表すの。」
私は黙ってノートに書く。
D(c1・f(x)+c2・g(x)) = c1・D(f(x))+c2・D(g(x))
「これを示せばいいんですね?」
「ええ、そうね。」
「どうしましょう」
「分かんない?微分の定義、知らない?」
なんだか言い方がキツくなってきたな。親しくなってきた証拠だろうか。
彼女と話すのが楽しみになってきたのは確かだ。その為に予約の30分前
に来ていた。しかしそれでも彼女はすでにここに座っていた。

D(f):=\lim_{x\rightarrow a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}
これが「f(x)のx=aにおける微分」の定義だ。
「limの右側は単なる分数。ここまで来たら、もうわざわざ書かなくても
簡単でしょう?」

一応、スカラー倍の式だけ書いておこう。
\lim_{x\rightarrow a}\frac{cf(x)-cf(a)}{x-a}=\lim_{x\rightarrow a}c\frac{f(x)-f(a)}{x-a}
cはlimに関係ないから、外に出せる。結局こうだ。
D(cf)=c\lim_{x\rightarrow a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}=cD(f)

「あるいは、どうせf(x)がテイラー展開できることを考えれば、fn(x)=xnについて、実際に線形であることを言ってもいいわね。そっちの方が簡単かも」
「実は、そっちを先に考えてたんです」
「あら、もうテイラー展開習ったの?」
「ええ、まあ、簡単にですけど」
「ちゃんと展開が可能であるか、まで習った?」
「いえ、そこまでは」
「ダメねえ。計算だけなら小学生でもできるわ。そもそもそれが存在するかの
証明が大変なのに。高校生にロピタルの定理使わせるのだって危険なのよ」

「線形変換がステキなのはね、行列に書き表せることなの。」
「行列、ですか。」
看護婦に呼ばれて彼女は慌てて部屋の中に入っていた。


去り際、彼女に渡されたノート。
---
表題:
JavaScriptは標準出力の夢を見るか?

本文:
本構の目的は線形変換のジョルダン標準形(JNF)の計算方法、利用法、背後
の数学理論(存在と一意性)を学ぶこと。

4/14
Section1 2x2の場合

例) A=\begin{bmatrix}5&-1\\-1&5\end{bmatrix} の対角化
固有方程式: x2-10x+24=0
∴x=4,6
\begin{bmatrix}1&-1\\-1&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}x\\y\end{bmatrix}=0
x=4の時は ∴[x;y]=[1;1]とすれば良い。(編注;"とすれば良い"に下線)
同様にx=6に対してはu6=[1;-1]とすれば良い。
P=[u4, u6]とすると(編注;u4てのは[1;1]のことだろう)
AP=\begin{bmatrix}4u_4,6u_6\end{bmatrix}=P\begin{bmatrix}4,0\\0,6\end{bmatrix}
よってP-1AP=[4,0;0,6] として対角化された。

例) A=\begin{bmatrix}5&-1\\1&3\end{bmatrix} の対角化
固有方程式x^2-8x+16=0 ∴x=4 (重解)
固有ベクトルはu=[1;1]で、これと一次独立な他の固有ベクトルは無い。
よって対角化はできない。
(A-xE)u=0
に対して
(A-xE)v=u
となるvを考える。今の場合
\begin{bmatrix}1,-1\\1,-1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}x\\y\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}
よって、例えば、v=[1;0]とすれば良い。
vを"一般固有ベクトル"という。
P=[u,v]
とすると、
AP=\begin{bmatrix}xu, xv+u\end{bmatrix}=P\begin{bmatrix}x&1\\& x\end{bmatrix}
P^{-1}AP=\begin{bmatrix}x&1\\& x\end{bmatrix}\\=J
として最後の行列JをJNFという。

J^n=(xE+\begin{bmatrix}&1\\&\end{bmatrix})^n=x^nE+x^{n-1}\begin{bmatrix}&1\\&\end{bmatrix}
(∵二項定理だ)
このように、対角化できなくてもジョルダン標準形にすれば、Anは
手計算で求められる。

4/18
Section2 より一般の場合
A∈Cnxnについて 固有方程式: det(λE-A)=0 の解λが
固有値(eigen value)であり、この時(λE-A)はfull-rankでなく
あんっている。よって方程式: (λE-A)x=0 の解uはnon-trivialな
解を持つ。

αをAのeigen valueとする。
一般固有空間...W(α)≡{x|∃k∈N s.t. (A-αE)kx=0}
また、その部分空間...Wm(α)≡{x|(A-αE)mx=0}
W(α)の0でない元を"一般固有ベクトル"という。

練習 (i)
A=\begin{bmatrix}5&-1&-1\\1&2&0\\3&-1&1\end{bmatrix} のJNFを求めてみる
固有方程式 det(λE-A)=0 ⇔ (λ-3)^2(λ-2)=0
when λ=2,
A-2E=\begin{bmatrix}3&-1&-1\\1&0&0\\3&-1&-1\end{bmatrix}\sim\begin{bmatrix}1&0&0\\0&1&1\\0&0&0\end{bmatrix}
	//"~"は行基本変形

(A-2E)\begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix}=0
これが即ち、
\begin{bmatrix}1&0&0\\0&1&1\\0&0&0\end{bmatrix}\begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix}=0
となるのだ。
∴as example, [x;y;z]=[0,1,-1]
when λ=3
A-3E=\begin{bmatrix}2&-1&-1\\1&-1&0\\3&-1&-2\end{bmatrix}

W2(3)を後で計算することを考えて、拡大係数行列を基本変形する.つまり...
\begin{bmatrix}2&-1&-1&p\\ 1&-1&0&q\\ 3&-1&2&r\end{bmatrix}\sim\begin{bmatrix}1&0&-1&p-q\\ 0&1&-1&p-2q\\0&0&0&-2p+q+r\end{bmatrix}

	//つまり 「(A-3E)x=p」を考えているのだ
第三行を見れば、-2p+q+r=0 ---(*)は必要十分条件

when p,q,r=0,0,0 (* is ok)
(A-3E)[x;y;z]=0 ⇔ x-z=0,y-z=0
	so as example [x;y;z]=[1,1,1]
then p,q,r=1,1,1 (* is ok)
(A-3E)[x;y;z]=0 ⇔ x-z=0,y-z=0
	so as example [x;y;z]=[0,-1,0]

図にしてみると、こう
\begin{bmatrix}0\\1\\-1\end{bmatrix}\rightarrow0\\
\begin{bmatrix}0\\-1\\0\end{bmatrix}\rightarrow\begin{bmatrix}1\\1\\1\end{bmatrix}\rightarrow0
→は左から(A-2)或いは(A-3)を掛けたことを表す。
この図を「ジョルダン鎖」という。

A\begin{bmatrix}0&1&0\\1&1&-1\\-1&1&0\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}0&1&0\\1&1&-1\\-1&1&0\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1&0&0\\0&3&1\\0&0&3\end{bmatrix}\\So, J = \begin{bmatrix}1&0&0\\0&3&1\\0&0&3\end{bmatrix}

コメ(0) | トラ(0)